なぜ学校プールの止め忘れは毎年繰り返されるのか?損害賠償は誰が払う?教員の負担や世間の批判とは?

話題と考察

なぜ学校プールの止め忘れが発生するのか?その背景と原因は?

学校のプールの水を止め忘れるというミスは、毎年夏に全国で繰り返される問題の一つです。
この記事では、具体的な事例や教員の業務負担、さらにはプール管理におけるシステムや手順の問題について詳しく見ていきます。
多くは、夏休み前や長期休暇中に発生します。
教員が忙しい日々の業務の中で、複数のタスクを同時にこなす必要があるため、プールの水を止めるという単純な作業が抜け落ちてしまうことがあるのです。

教員の業務負担とミスが起こる要因

教員の業務負担は非常に大きいものです。日々の授業の準備や生徒の指導に加えて、校内の様々な管理業務も担当しなければなりません。特に夏場は、プールの管理や体育の授業など、通常の業務に加えて追加の責任が増えることが多いです。

このような多忙な状況では、どれだけ注意深く作業を行っても、ミスが発生するリスクは避けられません。特に、プールの水を止めるという一見簡単な作業でも、他の緊急な業務に気を取られてしまうと忘れてしまうことがあります

プール管理におけるシステムや手順の問題点

プール管理におけるシステムや手順にも問題があります。
多くの学校では、プールの水の管理は手動で行われており、特別なチェックシステムが設けられていない場合が多いです。つまり、教員個人の注意力に大きく依存しているのです。

また、明確な手順やチェックリストが存在しない場合もあり、特に新任の教員や臨時の教員が担当する場合には、重要な手順が見落とされることがよくあります。
これらの手順の不備や管理体制の不整備が、止め忘れの原因となっているのです。

さらに、プール管理のためのテクノロジー導入が進んでいないことも一因です。
自動的に水を止めるシステムや、警告アラームを導入することで、ミスの発生を防ぐことが可能ですが、予算の問題や導入の手間から、多くの学校ではまだ採用されていません。

これらの要因が重なり合い、学校プールの止め忘れが毎年繰り返される原因となっています。

ここ数年に発生した事例

大阪市立矢田北小学校プール水流出事件(2024年6月)

2024年6月28日、大阪市東住吉区の市立矢田北小学校で、プールの水を張る際に教員が操作を誤り、約61時間の間、水が止められずに流出し続ける事故が発生しました。 

事件概要

  • 場所:大阪市立矢田北小学校(東住吉区矢田北1丁目2-1)
  • 期間:2024年6月28日午後~7月1日午前
  • 流出量:約690㎥(プール約2.7杯分
  • 原因:プール清掃後に水を張る際、教員が止水栓の操作を誤ったこと
  • 損害額:約60万円(水道料金)

顛末

  • 2024年7月2日: 大阪市教育委員会は、事故の責任者である教員に対し、注意処分を行いました。
  • 2024年7月11日: 大阪市は、教員に対し、損害額の50%にあたる約30万円を弁償するよう求めています

参考:FNNプライムオンライン

川崎市立稲田小学校プール水流出事故(2023年8月)

2023年8月10日、川崎市立稲田小学校(多摩区)で、プールの水を止めるのを忘れて約2,200㎥の水を流出させる事故が発生しました。この事故は、全国的にも注目を集めました。

事故概要

  • 発生日時: 2023年8月10日
  • 場所: 川崎市立稲田小学校(多摩区)
  • 被害: 約2,200㎥の水流出(プール約6杯分)、損害額約190万円
  • 原因: プール注水後、止水作業を誤った

顛末

  • 2023年8月10日、川崎市教育委員会は、事故の責任を校長と教諭に認め、損害額の半額にあたる約95万円の賠償を求めました。
  • 2023年9月22日、校長と教諭は、川崎市に対して約95万円を支払い、和解しました。
  • 2024年1月17日、横浜市教育委員会は、同市内で発生した同様の事故について、重大な過失は認められないとして、教諭への賠償請求を行わないことを決定しました。

参考:NHK首都圏ニュースWEB

横須賀市立馬堀中学校プール水漏れ事故(2022年4月)

2022年4月、神奈川県横須賀市立馬堀中学校で、プールの水を止めるのを忘れたまま約2ヶ月間放置し、約423万8千リットルもの水道水を流出させてしまった事故が発生しました。この事件は、当時多くのメディアで取り上げられ、大きな反響を呼びました。

事件概要

  • 場所:横須賀市立馬堀中学校
  • 期間:2021年6月下旬~2022年9月上旬
  • 流出量:約423万8千リットル(プール10~11杯分
  • 原因:プール管理担当教員の誤認(新型コロナ対策として水を溢れさせておく必要があると勘違い)
  • 損害額:約348万円(水道料金及び下水道使用料)

顛末

  • 2022年4月21日:横須賀市は、事故の責任者であるプール管理担当教員、校長、教頭に、損害賠償請求を行うことを発表しました。
  • 2022年9月:横須賀市は、関係職員3人に対し、損害賠償額の半額にあたる約174万円を支払うよう請求することを決定しました。
  • 2023年3月:横須賀市議会教育厚生委員会で、この事故について審議が行われ、再発防止策の強化が求められました。

参考:横須賀市報道発表資料

高知市立初月小学校プール水漏れ事故(2021年7月)

2021年7月、高知市立初月小学校で、プール水の止水栓を閉め忘れたまま教員が帰宅し、約1週間、水が流出し続ける事故が発生しました。 この事故は、地域住民に多大な迷惑をかけ、学校や高知市教育委員会にも大きな批判を浴びました。

事件概要

  • 場所:高知市立初月小学校
  • 期間:2021年7月14日~21日
  • 流出量:約7,681トン(プール約15杯分
  • 原因:水泳授業準備のためプールに水を張った後、止水栓を閉め忘れた教員のミス
  • 損害額:約290万円(下水道料金)

顛末

  • 2021年8月:高知市教育委員会は、事故の責任者である教員に対し、減給6ヶ月の懲戒処分を下しました。
  • 2021年12月:高知市は、教員3人に対し、損害賠償額の約45%にあたる約132万円を支払うよう請求することを決定しました。
  • 2022年3月:高知市議会教育厚生委員会で、この事故について審議が行われ、再発防止策の強化が求められました。

参考:高知さんさんテレビ

神奈川県綾瀬市立綾西小学校プール水漏れ事故(2019年10月)

2019年10月、神奈川県綾瀬市立綾西小学校で、プールの水を止めるのを忘れたまま教員が帰宅し、約1週間、水が流出し続ける事故が発生しました。 

事件概要

  • 場所:神奈川県綾瀬市立綾西小学校
  • 期間:2019年10月10日~29日
  • 流出量:約4,229立方メートル(プール約10杯分
  • 原因:プールの修繕工事後に止水栓を閉め忘れた教員のミス
  • 損害額:約116万円(水道料金及び下水道使用料)

顛末

  • 2019年1月:綾瀬市は、事故の責任者である教員及び校長に対し、損害賠償請求を行うことを発表しました。
  • 2019年3月:綾瀬市議会教育厚生委員会で、この事故について審議が行われ、再発防止策の強化が求められました。
  • 2019年9月:綾瀬市は、教員2人に対し、損害賠償額の半額にあたる約58万円を支払うよう請求することを決定しました。

参考:神奈川県タウンニュース

損害賠償の責任は誰にあるのか?

学校プールの水の止め忘れによる損害賠償の責任が誰にあるかについては、状況に応じて異なりますが、主に以下の法律が関係します:民法と国家賠償法です。

公務員の責任と国家賠償法

まず、公務員が職務中に過失を犯した場合の責任は、国家賠償法によって規定されています。この法律では、公務員が故意または重大な過失によって他人に損害を与えた場合、その公務員ではなく国または地方公共団体が賠償責任を負います。ただし、その後、国または地方公共団体は公務員に対して求償権を行使することができます。

しかし、実際のケースでは、公務員個人に対して直接損害賠償を求めることは少なく、多くのケースで地方自治体が賠償責任を負い、その後必要に応じて内部で調整が行われることが一般的です。

民法と信義則

一方、民法では、故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負うとされています。これは、教員が重大な過失を犯した場合に適用されることがあり、地方自治体が教員に対して損害賠償を請求する根拠となります。

例えば、横須賀市や高知市では、教員のプール水の止め忘れにより発生した損害に対して、関係者に賠償金の一部を負担させる措置が取られました。具体的には、損害額の半額程度を教員や管理職に分担させる例が見られます。

信義則に基づく配慮

教員が損害賠償責任を負う場合でも、信義則に基づいて損害の公平な分担が考慮されます。つまり、教員が全額を負担することは少なく、様々な事情を考慮して合理的な範囲内での賠償が求められます。これには、教員の勤務環境や管理体制の不備なども含まれ、単なるミスではなく重大な過失がある場合にのみ責任が問われます。

※学校の教員の場合の信義則とは

学校の教員としての職務においても、信義則は重要な役割を果たします。具体的には以下のような状況が考えられます。

  1. 生徒への対応

    • 教員は生徒に対して誠実に接し、教育の機会を公平に提供する義務があります。偏見や不公平な取り扱いは信義則に反します。
  2. 保護者との関係

    • 教員は保護者に対しても誠実に情報を提供し、透明性を保つ必要があります。生徒の成績や学校での状況について正確に伝えることが求められます。
  3. 同僚や上司との関係

    • 教員間の協力や情報共有においても信義則が適用されます。協力的な姿勢を持ち、共同での教育活動を円滑に進めるために誠実に対応することが重要です。
  4. 教育方針や規則の遵守

    • 学校の教育方針や規則に従って行動することも、信義則に基づく行動の一部です。ルールを守り、生徒や保護者に対してもその方針を誠実に伝えることが求められます。

教員の負担とストレスの現状

教員の一日の業務とプール管理の位置づけ

教員の一日は、授業の準備や実施、テストの採点、保護者とのコミュニケーション、生徒の指導など、多岐にわたる業務で埋め尽くされています。
特に体育教師は、体育の授業や部活動の指導に加え、プールの管理も担当することが多いです。プール管理は、安全面から重要な業務であり、注水や水質管理、清掃などが含まれます。
しかし、この管理は多忙なスケジュールの中で行われるため、ミスが発生しやすい状況にあります。

業務過多が引き起こす心理的負担とミスのリスク

教員は、過重労働やストレスにさらされることが多く、それが原因で心理的負担が増加します。業務が過剰になると、注意力が散漫になり、ミスが発生しやすくなります。

世間の批判や意見

学校プールの水の止め忘れに対する世間の反応は多岐にわたります。
SNSやブログ等では、教員の負担とミスの責任について多くの意見が飛び交っています。

世間の反応

SNS上では、多くのユーザーが教員の過剰な業務負担に同情的です。

  • 「ミスは必ず起こるものであり、それに対する予防策やシステムの構築が重要だ。これは学校組織全体の問題だ」
  • 「教員の責任にするのではなく、自治体がカバーするべきだ。ヒューマンエラーを防ぐ仕組みを作らないと」
  • 「プールの管理も教員の仕事だ。教員の責任意識が低いと感じる」
  • 「教員の業務量が多すぎるため、細かいチェックが行き届かない。学校全体で業務を分担し、チェックリストを活用するべきだ」
  • 「センサーを導入することで、水の止め忘れを防ぐことができる。少しの投資で大きな問題を未然に防げる」
  • 「教師に対する罰金は、個人の責任を追及するだけでなく、学校全体の管理体制を見直す契機とすべき。再発防止には組織的な取り組みが不可欠」(FNNプライムオンライン)

これらの意見を総合すると、教員の個人的なミスとしてだけでなく、教育現場全体の管理体制の問題として捉え、改善策を求める声が強いことが分かります。
教員の負担を軽減し、ミスを防ぐための具体的な対策が急務です。

そもそも、こういう時のために学校は保険に入っていないの?

学校がプールの水の止め忘れなどの事故に対して保険に加入しているかどうかについては、一般的に学校の施設や設備に関する損害保険が存在しますが、すべての学校がこれに加入しているわけではありません。また、具体的な適用範囲や条件は保険の種類や契約内容によって異なります​。

例えば、教職員組合などが提供する個人賠償責任保険に加入している教員もいますが、これは個人での契約になることが多く、学校全体での包括的な保険とは異なります
学校や教育委員会が加入している保険の範囲は、通常の業務に伴う事故や損害に限定されることがあり、プールの水の止め忘れなどの「過失」に対するカバーが含まれるかどうかは明確ではありません​

また、保険が適用されない場合、教員個人に賠償責任が課されることもあります。
これに対しては、教育現場や市民からの批判も強く、再発防止策の強化が求められています。
具体的には、センサーの設置やチェック体制の強化などが提案されていますが、現状では十分な対策が取られていないことも問題となっています。

このように、保険加入の有無や適用範囲は学校や地域、保険契約の内容によって異なり、完全な防止策として機能しているとは限らないのが現実です。

まとめ

学校プールの水を止め忘れるというミスが毎年繰り返される原因は、教員の多忙な業務やシステムの不備にあります。教員は日常的に多くの業務を抱え、その中でプール管理も行うため、注意力が散漫になりがちです。また、多くの学校では、プール管理の手順が不十分であり、手動での作業に頼っているため、ミスが発生しやすい環境が続いています。

具体的な事例を見ても、教員がプールの水を止め忘れることで多大な損害が発生しており、その責任を問われることがあります。これらの事故は、教員個人の過失だけでなく、学校全体の管理体制やシステムの不備が原因であることが明らかです。自動的に水を止めるシステムや警告アラームの導入が進んでいない現状では、再発防止策の強化が急務となっています。

教員の負担軽減とともに、プール管理のシステムを改善することで、これらのミスを未然に防ぐことが求められます。学校や教育委員会は、現場の声を反映した対策を講じ、教員が安心して業務に集中できる環境を整えることが必要です。

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